ネタバレ全く無しに感想を書くのはムズカシイ。
なので今回はちょこちょことネタバレ有りです。
観終わった方、ネタバレOKな方、どうぞ。
あらすじ
山間で静かに暮らす羊飼いの夫婦、イングヴァルとマリア。
ある日、羊の出産に立ち会うと羊ではない“ある生き物”が産まれた。
子供を亡くしていた二人は、その“ある生き物”をアダと名付け育て始める。
アダは二人のもとですくすくと育ち、アダの存在はイングヴァルとマリアの生活を楽しく幸せなものへと変えていった。
しかし、幸せは長くは続かなかった。
彼らのまわりに漂い始める不穏な空気、忍び寄る影。
少しずつ崩れ始めていく“家族”
アダは何者だったのか…。
スタッフ・キャスト
・2021年製作/アイスランド・スウェーデン・ポーランド合作
・原題:Lamb
・配給:クロックワークス
監督 | バルディミール・ヨハンソン |
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脚本 | ショーン バルディミール・ヨハンソン |
マリア | ノオミ・ラパス |
イングヴァル | ヒナミル・スナイル・グブズナソン |
ペートゥル | ビョルン・フリーヌル・ハラルドソン |

感想
視線が非常に気になる。
その時々に変わるカメラの目線。
これは今、誰の目線なのか…羊、アダ、マリア、そしてあの男。
そしてこちら(カメラ)をじっと見る犬、猫、羊、アダ…。
彼らは何を見ているのか。
登場人物は少なく、セリフも少ない。
そして説明も非常に少ない映画でした。
だけど、セリフは無くても映像の中でたくさんの事を語っていて場面の些細なひとコマを見逃さず、あれこれと考察するのがとても面白かったです。
幼い我が子を亡くした夫婦。
自分たちの牧場にいる羊が産んだ“ある生き物”に亡くなった我が子の名前を付け育てていく。
(おそらく)彼らは事故で子供を亡くしたのでしょう。
(おそらく)それは川での事故。
(もしかしたら)過去に一度だけ義弟と過ちがあったマリア。
さらっと映った一場面、ほんのひとセリフから“きっとそうなんだろうな”を考えながら観ました。
セリフと言えば、アダのセリフは一切無し。話す事が出来ないアダ。
だけど「食べる?」「楽しい?」「踊る?」…と、会話をする事は出来なくてもアダとコミュニケーションが取れているマリアとイングヴァル。
ま、そこは羊だからというのではなく、人間の子供でも同じではないでしょうか。
仮にその子が話すことが出来なかったとしても親は(親に限らずいつもそばにいる人は)声以外の何かで意思の疎通ははかれるものなんだろうなと思います。
アダに草を食べさせるペートゥルの手からアダを取り上げるイングヴァルも印象的でした。
この子は羊じゃない!
羊なのか?子供なのか?…羊か子供か…子供として可愛がり育てているアダは本当に“子供”なのか?
時々フッと頭に浮かぶ「子供か?羊か?」
アダを完全に“子供”と可愛がるマリアと比べるとイングヴァルはまだほんの少し迷いというかふと我に返るところがあったような気がします。
それでも
草なんか食っちゃだめだ。羊じゃない!と慌てて取りあげるイングヴァルと、
お前は母親じゃない、母親は私!と母羊を撃ち殺すマリア。
奇妙に見えいてた羊の子供は、段々と可愛らしい子供に見えてきます。
イングヴァルと。
マリアと。
ペートゥルと。
手をつないで歩くアダの後ろ姿は、ただの幼く弱く守るべき小さな人。
「アダは天の贈り物」と言うマリア。
“天”とは“神”のことなのだとしたら、アダは神様からの贈り物ということでしょうか。
でも、もしもアダは「贈り物」ではなく「神様のもの」だったとしたら。
マリアとイングヴァルは罪を犯しているのではないか、とも思えます。
アダムとイブがリンゴを食べてしまったように。
大人だけで過ごす日々は静かで穏やか。そして単調な毎日。
毎日決まった仕事をこなし、食事をし、テレビを見、読書をして眠る。
そんな静かな日々から「子供のいる生活」へ。
毎日がにぎやかで、バタバタと忙しく、そして声を出して笑うこともたくさん増えたでしょう。
2人にとって幸せな日々。
幸せそうだな…と思いつつも、心のどこかで
と思ってたら、やはり後半はがらがらと“幸せな毎日”が崩されていきました。
一人で外に出たアダが目にした怖ろし気な男の姿。
アダの瞳に映る羊男。
慌てて逃げ帰り、鏡に映る自分の姿を見るアダ。
さっき見たおそろしい男の姿と自分が似ていることに気づくアダ。
無性に怖くなって、だけどそれを父(イングヴァル)に伝えることも出来ずただただ不安で怖くて父の腕に中にもぐりこんで眠るアダ。
そして、あのラストの意味は
そして、あのラスト。
てな感じではありましたが、私はあの時
夫と子供(アダ)を失い、たった一人になったマリア。
そばには銃。
あ~、きっとマリアはこの銃で自らの命を捨ててしまうんだな、と。
が、突然ハッと気づいたように顔をあげ何やら決意したような力強い表情で映画は終了。
え?と一瞬思ったけれど
きっとマリアはイングヴァルとの子供を妊娠したんじゃないだろうか?
そして出産。
マリアは強い女性なので、母子二人でたくましく生きていくのではないかと。
それを思うと、死ぬ間際に大事なアダを自分の手から奪い取られ連れ去られるアダの後ろ姿を見ながら亡くなってしまったイングヴァルが一番可哀想。
誰かと手をつないだアダの後ろ姿が印象的で、とにかく予想してた以上に面白い映画でした。
最後に。
エンドロールにも注目。
キャストのところで「アダ」の横にたくさんの名前が。
7,8人はいたんじゃないかな。
頭は羊だったけど、体は最初のプリっと丸々した赤ちゃんのアダから3歳くらい、5歳くらい…といろんな年齢のアダちゃんがいましたよね。
造り物ではなく、本当にそれぞれの年齢の子供達がアダちゃんを演じていたのでしょう。
羊の出産シーンもきっと本物で、こういうところにも監督のこだわりを感じました。