無口でニコリともしない少女の踊る姿が美しい。
スッと背筋を伸ばして立つ姿。
普段着のまま町の片隅でバレエの練習をする姿。
そして、ピアノで演奏されたテーマ曲。
この曲を聴いただけで色んなシーンが思い出されて鳥肌が立っちゃうんですよ~。
あらすじ
故郷の広島を離れ、新宿のニューハーフショークラブでステージに立つトランスジェンダーの凪沙。
ある日、田舎の母親に頼まれて「一果」という名の少女を預かることになった。
凪沙の親戚の娘「一果」は親から虐待されていた。
養育費目当てで引き受けたものの二人は理解し合えるはずもなく、ギクシャクとそして淡々と過ごしていく。
社会の片隅に追いやられ暮らしてきた凪沙と孤独の中で生きてきた一果…二人は共に生活していく中で少しずつ相手のことを知る。
そして、凪沙は今までに感じたことのない感情が芽生え始めていく。
スタッフ・キャスト
2020年製作 日本
配給:キノフィルムズ
監督 | 内田英治 |
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脚本 | 内田英治 |
凪沙 | 草なぎ剛 |
桜田一果 | 服部樹咲 |
桑田りん | 上野鈴華 |
桑田真祐美 | 佐藤江梨子 |
桑田正二 | 平山祐介 |
武田和子 | 根岸季衣 |
桜田早織 | 水川あさみ |
洋子ママ | 田口トモロヲ |
瑞貴 | 田中俊介 |
キャンディ | 吉村界人 |
アキナ | 真田怜臣 |
片平実花 | 真飛聖 |
感想
地元が舞台の話だと、つい気になってしまうのが方言。
と思いつつも、
最初に映画館でこの映画のフライヤーを見た時、
「草なぎ君、あんまりキレイじゃないなぁ。もうちょっとメイクもヘアスタイルもいい感じに出来そうなのに何で?」
と思いましたが、映画の中で凪沙が
「何で私だけ?」
「私って気持ち悪い?」
と泣くシーンを見てわざとあのような感じに…美しさ抑え気味にしてたのかなぁ、と。
でも、それも段々と気にならなくなってきます。
時に実花先生と可愛らしく笑い、
時に❝母親❞のように優しく一果に微笑む凪沙。
凪沙の事を少しずつ知ってくると、見た目もいろんなことも気にならなくなってきて普通におしゃべりをしたり笑ったり、悩み事を相談したり…ごく自然に普通に他の誰とも何ら変わりなく接するようになります。
現実もきっと同じ事なのでしょう。
よく知らないから身構えたり、距離を置いたり、線引きしてしまうのだと思います。
疑問だったのは一果を迎えに田舎へ帰った時。
揉み合いになって服が破け胸があらわになってしまった凪沙。
めっちゃ都合よく胸がはだけたなぁ~。
え?ブラつけてないの?
でもって、人がたくさんいる中であんなことになったら真っ先に胸を隠さないの?
いつまでも胸をさらしたままで、見てる私の方が「早く隠して~」と恥ずかしい気持ちになってしまいました。
それとも「女性になったのよ!」と見せつけたい気持ちだった?…いやいや、違うよね、きっと。
それと、もう一点。
いくら親戚とはいえ、ほとんど会ったことも無い男性(田舎のみんなは凪沙のことを男性と思ってるわけで)に中学生の女の子を預けたりする?
もう頼るのは凪沙の所しかないという事だったのか。
でもなぁ~。ちょっとなぁ~。
怖くないですか?どうなんでしょう、それって。
と、ちょっぴり疑問に思う部分もあったけど「感想」としてはすごく良かった。
キラキラと輝いてとても綺麗な東京の夜景。
その輝いている街のどこか片隅…光が差し込まない裏通りに住む不器用な二人。
凪沙、一果、お店で働くニューハーフの仲間たち。
辛いこともいっぱいあるけど力強く生きる。
自分らしく生きる為に。
強くならなくちゃ生きていけない。
一果とりん、ぼそっと棒読みのように
「なったよ」「なってないよ」
と、屋上で会話するシーンも良かった。
プロのバレリーナになりたかったりん。
二人が同時に同じ曲で踊りだす場面。
幕からひょっこり顔を出すところが可愛い。でも、調べて見ると幕を持ってひょっこりするのはNGなんだそうです。
映画の中で幕を持ってたかどうかは覚えてないけど、あの最初のフリはとっても可愛らしい。
そして、踊るりん。
りんに注がれていたみんなの視線が他の人に移っていき…。
見てる途中で、
「あ~、これはきっと…」
とわかってハラハラしました。
この映画の中にはいろんな母親が登場するので、彼女たちについて考えるのも面白いかもしれません。
「女性になった息子を見て病気だと嘆く年老いた凪沙の母」
「きっと愛情はあるのに上手く表現できない一果の母」
「理想の子供の姿ばかりで現実に目の前にいる子供が見えていないりんの母」
「自分を犠牲にしてでも一果の夢を叶えたいと思う母親としての凪沙」
おそらく、一果の母も愛情はあったのだと思います。
卒業式での二人の姿と、
卒業したら凪沙に会ってもいい、と約束していた事と、
一果にバレエを続けさせてくれた事。
だから、一果も凪沙が迎えに来た時に母親の陰に隠れたのでしょう。
いっそのこと、虐待ばかりでどうしようもない母親でいてくれた方がこちらとしては気持ちがすっきりしたと思うのですが、悪いところばかりではない、そして生まれてからずっと‥十数年一緒に生活してきた。そしてやはり母親…ということなんでしょうか。
血の繋がりって目に見えなくてもやはり何かしら結び付けてるものがありますよね。良くも悪くも。
「嫌だ」「捨てたい」と思ってもなかなか切ることが出来ない一番どうにもならなくて、一番悩ましくて厄介で面倒くさいものが家族とか血の繋がりとかいうものなのです。
真飛聖演じるバレエの先生は、本物?と、思うくらいホンモノっぽくて素敵でした。
って、バレエ教室見たことも行ったことも無いので、考えてみたら「ホンモノ」かどうかなんてわからないのですが、私のイメージする「バレエの先生」そのものです。
凪沙の最後は切なくて悲しいものでした。
でも、一果と過ごしたあの時間は短くてもあたたかで幸せな時間だったのでしょう。
母として守りたい存在が出来、その「大事なものを守るために生きる幸せ」を感じることが出来たのではないか、と思います。
…というのは少しきれい目の映画感想で。
本当は、凪沙にはもっともっともっと幸せになって欲しかった。
いっぱい幸せな時間を過ごしていっぱい笑って、そんな日々を過ごして欲しかったよ~。
今も東京のどこかの街の片隅で凪沙が暮らしているような気がします。
バレエを頑張っている一果の事を思いながら、私も頑張ろう!って。
以前とは少し違う感じで前を向いて力強く生きているような。
そして、それは一果も同様で「見てて」の言葉がとっても頼もしく思えました。
そしてそして!!
この映画を観てバレエっていいなぁ~と気になり始め、動画を見たりネット検索したりする中で
「舞姫 テレプシコーラ」
というマンガを知りました。
ハマりまくって夢中になって全巻一気読み。
ほんっとに面白いです。
いつかバレエ公演を観に行きたい。と、また新たな楽しみが増えました。