ばーーんと画面いっぱいに映画のタイトル。
「岬の兄妹」の文字がなんだか「仁義なき戦い」っぽい。
二人にとっては毎日が生きるための戦い。
何と?世の中と?正義と?
ただただ「生きる」
あらすじ
ある港町で自閉症の妹・真理子と二人で暮らしている良夫。
貧しいながらもどうにか生活していたが、良夫の勤める造船所でリストラがあり足の不自由な良夫は真っ先にクビになってしまう。
新しい職も見つからず、内職を始めるがあまりにも収入は少なく次第にお金は尽きていく。
そんなある日、真理子が男と体の関係を持ちお金を受けとっていたことを知る良夫。
驚き動揺する良夫だったが、職もなく食べるものも何ひとつない生活でお金を稼ぐにはこれしかない。と思い始める。
男に妹の身体を斡旋することに罪の意識を感じながらも、これまで理解のしようもなかった妹の本当の喜びや悲しみに触れ困惑する良夫。
そんな時、妹の心と体にも変化が起き始めていた。
【プレシディオチャンネルより】
スタッフ・キャスト
2018年製作 日本
配給:プレシディオ
監督 | 片山慎三 |
---|---|
脚本 | 片山慎三 |
道原良夫 | 松浦祐也 |
道原真理子 | 和田光沙 |
溝口肇 | 北山雅康 |
産婦人科医 | 風祭ゆき(特別出演) |
感想
悪人になり切れない兄と無邪気な妹。
まるで幼い子供のように自分の感情のまま行動し、気持ちをぶつけ、言葉を発する真理子が哀しい。
これは映画だけれど、実際に同じようなことがあるのかも。
もしかしたら、ここまでじゃないけれど似たようなことかも。
もしかしたら、この映画よりももっとひどいことかも。
そんなことを考えると、じゃあどうしたらいい?というのが頭の中をぐるぐるしてちっともまとまらない。
友人であり警察官である肇が「お前のやってることは犯罪だ!」と言った時に、
お兄ちゃんがこたえた「だから何だ!」という言葉。
1個1円の内職を頑張って頑張って寝る間も惜しんで頑張っても妹と二人で食べていくのは難しい。
贅沢したいわけではなく、今日食べるご飯を買うお金も無い現実。
2人で内職のポケットティッシュを「甘い」と言いながら口にするシーンは悲しすぎる。
じゃあ、どうしたらいい?
今は生活保護だって簡単には受けられないはず。
仕事をしたくても雇ってもらえない。
2人がやったことは良くないことだってわかってる。
でも…じゃあ、どうしたらよかったのか?が、わからない。
ただただ「生きる」
今日を、明日を、毎日を、ただ生きていたいだけなのに。
真理子が障碍のある男性と仲良くなっていくシーン。
恋をしたかのような真理子に、少し嬉しくなり微笑ましいような気持ちで観ていた私にその男性は言った。
「僕だったら真理子ちゃんと結婚すると思った?」
障がい者同士のカップルを勝手に「お似合いだな」と微笑ましく見てた自分に気づかされた。
これは「差別」?
お兄ちゃんが彼の家を出ると、そこには真理子の姿が。
帰りたがらない真理子はやっぱり彼のことが好きだったのか。
道端にひっくり返って泣きわめいても、彼は家から出てきてはくれない。
映画でもテレビドラマでも、いじめのシーンは陰湿で見るのが耐えられないけれど、お兄ちゃんの反撃は最高で笑えた。
大事なものを守るためには無様でもなんでもいい。(後の処理は大変そうだけど)
この学生たちがチラシを持ってきたとき、最初、真理子が辛い目にあわされるんじゃないかとハラハラしたけれど奴らの目的はお兄ちゃん。
もしかしたら、やってきた真理子を見て目的をお兄ちゃんに変えたのかもしれないけど。
そして、真理子は一人の男の子を救う!
「生きてたら良いこともある」
毎日いじめられていた男の子にそう思ってもらえただけでも‥‥良かった。うん、良かった。と思う。
例えば、映画の中の良夫と自分を置き換えて考えてみる。
仕事をクビになった。
面接を受けても受けても落とされる。
自分は足が不自由。両親は居ない。自閉症の妹も養っていかないといけない。
お金がない。食べるものもない。お金がない!お金がない!!!
もう「犯罪に手を染めるしかないほど」「死ぬしかないほど」追い詰められた状態だったとしたら?
本当にそれしか道はないのか?
それしか道は残っていない。…ということはあるのか?
本人は追い詰められているから、一つしか道が見えていないのかもしれない。
でも、まわりの誰かから見たら別の道(方法)が見えてたりしないのだろうか?
それをちゃんと伝えてあげられる人がいれば…。
でも、それってただの理想?非現実的?
結局は、人と人のつながりが一番大事だと思う。
心配して様子を見に来てくれた肇。
会社に戻ってきて欲しいと言いに来てくれた社長さん。
人との繋がりのおかげで道を戻ることが出来、死なないで生きることが出来るのではないか。
ラスト。
造船所の仕事に復帰したお兄ちゃんが真理子を探しているシーン。
岩場の上に立つ真理子のもとに近づくお兄ちゃんの携帯が鳴り、少し微笑んで振り返る真理子。
この真理子の顔がとても良かった。
さて、この電話は…肇から?
それとも、まだどこかに散らばってたチラシを見た誰かから?
でも、お兄ちゃんがそれをさせることはもう無いはず…と思いたい。
和田光沙さんの文字通り体当たりな演技、素晴らしかった。
ただ、誰にでも「観て」とオススメは出来ませんが。
【追記】
この記事を書き終わって数日後に読み返し、ラストの「もうそれをすることはない」というのはどうなのか?と考えた。
「悪い」というのは良夫自身、十分に分かっているうえで。
また仕事がなくなったら。
どこにも頼ることが出来なかったら。
それでも「生きる」という選択をしたのなら。
私のあの答えはキレイゴト過ぎるのかもしれない。