「子供をなくした親に残りの人生は無い」
映画の中でのセリフだけれど。
そうだよなぁ、ホント、そういう気持ちになると思う。
でも…。
あらすじ
工場で働くごく普通のサラリーマン、 サンヒョン。
数年前に妻をガンで亡くし、男手一つで娘を育ててきた。
一人娘のスジンは中学生。
いつものように仕事を終えて帰宅すると、スジンは残業ばかりの父親に不満をぶつけ翌朝も不機嫌なまま朝食もとらず、顔を合わせることもなく学校へと行ってしまった。
その日の夜、土砂降りの雨の中、また残業で夜遅く帰宅すると家の中に娘の姿は無い。
心配しつつも、友人宅に泊まっているのだろうとそのまま次の日も仕事へと向かう。
仕事中のサンヒョンのもとに、スジンが遺体で発見されたと警察から電話が入った。
あの雨の日、スジンはこの辺りにたむろしている少年たちに連れ去られレイプされ殺されてしまったという。
ショックのあまり呆然とし、何日も警察の前にただ座り込むサンヒョン。
ある日、サンヒョンの携帯に犯人の名前と住所が書かれた匿名メールが届いた。
書かれた住所をたずね家の中へと入り証拠を探していると、この家の住人、高校生のチョリョンが帰ってきた。
とっさに隣の部屋に身をひそめていると、チョリョンがパソコンで再生し始めたのは犯行の様子を撮った動画…そして、それを見て笑うチョリョン。
「パパ」と泣き叫ぶスジンの姿を見てサンヒョンは衝動的にチョリョンを殺害してしまう。
そして、メールにあったもう一人の名前 ドゥシクを追う。
一方で、スジンの事件を担当するベテランの刑事オッグァン。
チョリョンの殺害はサンヒョンだと直感し、共犯のドゥシクにも危険が迫っていると後輩の刑事と共にドゥシク、そしてサンヒョンを探す。
スタッフ・キャスト
2014年製作 韓国
原題:Roving Edge
配給:CJ Entertainment Japan
監督 | イ・ジョンホ |
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原作 | 東野圭吾 |
脚本 | イ・ジョンホ |
サンヒョン | チョン・ジェヨン |
オッグァン | イ・ソンミン |
ヒョンス | ソ・ジュニョン |
ドゥシク | イ・ジュスン |
スジン | イ・スビン |
キム・ミンギ | チェ・サンウク |
キム・チョリョン | キム・ビショク |
感想
人の命を残忍にそして簡単に奪う少年。
息子が犯行に関わっているとも知らず「裁判なんかしなくていいから死刑にしろ」というミンギの父親。
17歳のチョリョンの命乞いや謝罪の言葉には耳を傾けることもなく殴り殺すサンヒョン。
命を奪われるほどの事をしたのか?と泣きわめくチョリョンの母親。
娘がレイプ動画を撮られ自殺し「犯人をつかまえて」「殺してやりたい」と刑事に泣きながらしがみつく被害者の母親。
「子供が大人を殺すのはよくあることだが、大人が子供を殺すのは大問題だ!」
生と死、悪、罪、正義、更生、大人と子供、法律…いろんなことが頭の中でごちゃ混ぜになる。
そして、答えが見つからなくてモヤモヤもいっぱい。
やられたらやり返す。目には目を。…これでは、世の中大変な事になってしまう。
だから警察がいて、だから法があり法を守っていく。
それが、人として生きるという事なのかな、と思う。
生きていくって、時にめちゃくちゃしんどいものなんだ。
だけど、サンヒョンはそれを捨ててしまった。
サンヒョンに感情移入しながら私も一緒になってドゥシクを追い、オッグァンの
「殺して気が済むのか?」
の言葉に、ふと立ち止まって考えてしまったり(←私が)
きっと気が済むことはないし、気が晴れることもない。
こんなことをしても死んでしまった子供は帰ってこない。
わかってるけど。けど!!
オッグァンの言うとおり、ただじっと耐えるしかないのか。
悲しみも、苦しみも、つらさも後悔もじっと耐えて乗り越えるしかないのでしょうか。
考えるとため息ばかりです。
最後、ドゥシクを目の前にしたサンヒョンには復讐の気持ちは無かったのでは。
犯人の更生もつぐないも、もうそんなものはどうでもよかったんだと。
ただただ娘を守ってあげられなかった後悔。
つらく、怖く、痛い思いをさせてしまった後悔。
それのみだった気がします。
スジンがあの時どんな思いをしたか…と考えるとたまらなくなる。
ただ一人残されたサンヒョンが「生きててもしょうがない」「生きていたくない」と思うのもわかる。
命がなくなってからも、ドゥシクの服をぐっとつかんで離さなかったサンヒョン。
きっと何度も何度も思った「あの雨の日に駅まで迎えに行っていれば」
駅でサンヒョンを見つけ、ちょっと苦々しい顔をした後のスジンの笑顔。
このサンヒョンのラストのシーンが、ずっと頭から離れず映画を観終わってからもかなり引きずりました。
途中、
な場面もチラホラ。
ボロボロな状態なのにやっつけたり、逃げ切ったり。不死身かよ!!的なw
でもそれはきっと、火事場の馬鹿力というかクソ力というか、強い思いがサンヒョンの奥底に眠っていた力を呼び起こしたんだろう…と思うことに(しました)。
少年法のあり方は、正直言ってわかりません。
少年法を逆手にとって悪いことをする少年たちは許せない。
もっと厳罰化するべき!と言いたくなるようなひどい事件もあります。
でも一方で、心から反省し償いの気持ちを持ち、更生しようとしている子もいるはず。
残念ながら、この映画の中のドゥシクは自分がやったことの重さをあまり感じていないようでしたが。
殺人罪にも問われず、あっという間に社会に戻ってきてしまう。
被害者は理不尽な思いに苦しみ、ただ耐えて乗り越えるしかないのでしょうか。
この映画の予告の中で
「父親の復讐は正義か悪か?」
という言葉があったのを見て思い出しのは「死役所」というマンガの18巻にあったあるお話。
加害者側の家族の話でした。
「加害者の家族」も人生がめちゃくちゃになってしまうのです。
主人公は加害者の妹(中学生)、彼女も事件後多くのものを奪われてしまいます。
被害者の父親の復讐は正義…そんな言葉もありました。
この作品も悲しく考えさせられる内容だったので機会があればぜひ。
この「さまよう刃」
2009年に寺尾聡主演で日本で映画化。
そして、この韓国版は2014年製作。
そしてそして、2021年にWOWOWでドラマ化されています。
原作と合わせて全作品見比べてみるのもおもしろそうです。