まず驚いたのが、多くのキャストがそれぞれの役柄に似た境遇の❝素人❞ということ。
ドキュメンタリー映画ではないけれど、まるっきりフィクションでもなく。
世界のどこかで苦しんでいる子供たちがたくさんいる。という事実。
あらすじ
12才のゼインは、両親と兄弟姉妹とベイルートの貧民窟に暮らしていた。
子供たちはみな朝から晩まで路上で物を売り、学校にも行けない毎日。
両親が出生届を出していないため、ゼインは自分の誕生日も年齢も知らず、法的には社会に存在すらしていない。
ある日、大好きな妹のサハルが11歳で強制的に結婚させられた。
ゼインは怒りと悲しみから家を飛び出していく。
仕事と食べ物を求めて路上をさすらうゼイン。
エチオピア移民の女性ラヒルは、そんなゼインを見かねて家に住まわせる。
ラヒルの赤ん坊の世話をしながら一緒に暮らすゼイン。
ある日妹のサハルが死んだことを知ったゼインは、サハルの結婚相手を刺し禁固5年の刑を言い渡される。
出生証明書も身分証明書もないゼインは、自分を産んだ罪で両親を訴える裁判を起こすのだった。
【キノフィルムズチャンネルより】
スタッフ・キャスト
2018年製作 レバノン
原題:Capharnaum
配給:キノフィルムズ
監督 | ナディーン・ラバキー |
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脚本 | ナディーン・ラバキー / ジハード・ホジェイリ ミシェル・ケサルワニ / ジョルジュ・ハッバス ハーレド・ムザンナル |
ゼイン | ゼイン・アル・ラフィーア |
ラヒル | ヨルダノス・シフェラウ |
ヨナス | ボルワティフ・トレジャー・バンコレ |
サハル | シドラ・イザーム |

感想
最初に書いた通り❝出演者のほとんどが演じる役柄によく似た境遇の素人❞という事に驚き。
そして、ゼインの可愛らしさと賢さとせつなさ(あ~、まじめに書いてるのに何かの歌みたいになってしまった)に驚き。
驚きというか、現実なのか映画の中のお話なのかわかんなくなった。
路上で仕事をしている時、スクールバスで学校から帰ってくる自分と同じくらいの年頃の子供たちをちらりと見る表情。
妹に生理が始まったとき、処理をしあれこれ準備をし親に気づかれないようにするゼイン。(気づかれると結婚させられてしまうから)
可愛らしさ、とは書いたけれど「可愛い」なんてそんなのどうでもいいほど子供たちを取り巻く世界は過酷。
ただただ毎日を生きるのに必死で、余裕も自由も安心も何もない日々。
子供って無条件で「愛されるもの」「守られるもの」ではないの?
とりわけ気になったのは、11歳で結婚させられた妹のサハル。
サハルはこの後すぐに妊娠をし、そして死んでしまうのです。
小学生の女の子が?
親が勝手に決め、本人が泣き叫んで嫌がっても無理やり相手に引き渡す。
何らかの報酬を受け取ってるのだから❝結婚❞とは名ばかりで❝人身売買❞ですよね。
裁判で裁判長が相手の男に対して「11歳という年齢が結婚に適していたと思うか?」と尋ねた時、「そう思う」という言葉と共に「熟していた」と答えたこと!
許せなく、おぞましく、そして本当に不快。
男の子も女の子も労働力として、そして品物のように?家畜のように?誰かに譲ってお金に換える。
「子供は支柱になる」
と何人も子供を作り産む両親。
この両親もゼインと同じように「存在しない子供」として生まれたのだろう。
同じように学校にも行かず、ただただ働かされてきたのだろう。
抜け出せないこの悪循環、どこに原因があるんだろうか?どうにかならないのだろうか?どうすればいいのだろうか?
移民、難民、不法就労、児童結婚、人身売買…ニュースや何かで耳にしたことはあるけれど、今一つピンとこない。
どこか遠い❝他人事❞の話。にも思えるけれど、ゼインの
「世話が出来ないのなら生むな」
の言葉がずしっと心に響くのは、この頃日本でも頻繁にニュースで目にする「虐待」「育児放棄」と結びつくからだと思います。
ゼインが知り合った移民の女の子は「スウェーデンに行く」と嬉しそうに語っていました。
スウェーデンに行ったらこんないいことがあるんだよ、とゼインに話すその中に
「死ぬときは自然な死に方」
というのがありました。
…私には想像が出来ないよ。
小さな女の子がワクワクと嬉しそうに話す「これから起こる楽しいコト」のリストの中に
「死ぬときは自然な死に方」
が入っているということの意味。
これまでどういう状況の中で暮らしてきたのか。
何を見たのでしょう。
何を聞いたのでしょう。
何を体験したのでしょう。
この映画は、子供目線なのがイイ。
映画を観て「可哀そうな子供」と涙するのではなくて、必死に生きてる子供たちの怒り、思い、大人や社会に訴えたいこと、を強く感じたい。
ラストシーン。
身分証明書用の写真を撮るゼイン。
カメラマンに「もう少し右」「もうちょっと左」と立つ位置を指示され、「右」と「左」というものを理解するゼイン。
笑顔の写真の身分証明書を手にしたゼインに号泣です。
映画館で、私の後ろの席からも泣いてる声?が聞こえたのですが、席を立つときにちらりとその席を見たら年配の男性でした。
いや、泣けますよね~。子供が出てると特に。
その他気になったシーンは、
ラヒルが収容所でゼインと会った場面。
ヨナスの名前しか叫ばなかった事を不満に思う感想も目にしましたが、あれは仕方ないよね。
自分の息子だし、赤ん坊だし、一番心配で知りたいことだっただろうし。
ヨナス。可愛かったですね。
音楽でリズムをとるところとか、食べてるところとか。
あの年の赤ちゃんに演技は出来ないだろうから全部❝素❞なのかな。
笑ったり泣いたり、ゼインになついてる様子がほんと可愛かった。
映画を観終わって。
トイレの列に並んでいたら、私の後ろに並んだ40~50代の女性2人組が
「可哀そうだったけど面白かったねー」
とおしゃべりしておりました。
オモシロイ…。うーん、オモシロイ?
映画の中の作り話ではなくて、実際にあんな目にあっている子供たちがいるってことですよね。
オモシロイというより私は色々と考えさせられました。
今回のような映画を観た後は、気持ち的にかなり引きずってしまってなかなか通常モードに切り換えられません。
映画を観終わって「ちょっとお茶でもする?」
的な会話が出来ないので、基本映画は一人で鑑賞します。